『ビジョンとともに働くということ』

ビジョンとともに働くということ 読書メモ - ビジネス

1.書籍情報

山口周、中川淳著、祥伝社、2022年4月発行、280ページ

2.購入した経緯

山口周シリーズ。

3.読書メモ

山口さんと中川さんがひたすらビジョンについて語り合う本。ビジョンの重要性が理解できる。どの会社もビジョンを掲げてはいるが、ビジョンのように抽象的なものは、本一冊になるくらい語り尽くしてもらわないと、誰も十分には理解できないのではないかと思う。

■「問題」とは、「望ましい状態」と「現在の状態」に「差分」があること。「問題の希少化」という問題は、私たちが「世界はこうあるべきではないか」あるいは「人間の暮らしはこうあるべきではないか」ということをイメージする構想力の衰えが招いている、といえる。私たちは「ありたい姿(望ましい状態)」のことをビジョンと表現する。「問題の希少化」というのは「ビジョンが不足している」ということ。(5−6ページ)

■「どんな商品も機能面ではほとんど差別化できなくなってきているので、それ以外のところで「顧客がこれを選ぶべき理由」を提供しなければいけない。」(「ボディショップ」が、化粧品そのものの品質とは関係のない、「動物実験をせずにつくっています」という、顧客ベネフィットを語らないマーケティング手法で顧客を増やしたことに関連して。)(88ページ)

■「いま存在感を持っているビジネスの多くがクリティカル(批判的)なものになっているのは、時代や社会に対する違和感を共有できるブランドにお金を払いたいと思う消費者が増えているからでしょう。少なくとも先進国の社会は「安全・快適・便利」という価値は一定の水準で達成しているので、ここから先はそれが消費者にとっての価値になるわけです。(中略)会社がビジョンをつくるというのは、広く共有されるであろう自分たちの違和感を言葉に落とし込んでいく作業なのかもしれません。」(96ページ)

■近代法哲学には「推定無罪の原則」がある。被告人が有罪であることを証明するのは検察の仕事で、それができなければ無罪。被告人側が無罪を証明するなんてあり得ない。(カルロス・ゴーンの海外逃亡を受けて、当時の法務大臣が「潔白だというのなら、司法の場で正々堂々と無罪を証明すべき」と発言したことを受けて。)(104ページ)

■事業の範囲が広い大企業の場合、何か具体的なビジョンを掲げると自社でやっている何かを否定するという矛盾も起きかねない。そのためビジョンとして掲げる言葉の抽象度が上がってしまい、意味がなくなってしまう。事業部門のレベルでないと、実質的な意味のあるビジョンは描けないかもしれない。(113ページ)

■(ビジョンとミッションとパーパスの違いについて)「本来、経営学は会社を経営する人たちのためにあるわけですよね。学者自身のために存在するのではありません。でもそれを生業にしている人たち自身も、常に目新たしさを出していかなければ生き残れないと考えるんでしょう。だから、本質的には何も変わらないものに、新たしい名前をつけたりする。要するに、まやかしですよ。言っていることはどれも基本的に同じ。「金銭的な利益を求める以外にも会社として大切にすべきことがある」という考えが根底にあって、その「大切にすべきこと」をミッションとかビジョンとかパーパスとか呼んでいるだけの話です。」(136ページ)

■「僕は周さんの本でその話を読んで、会社は「ゴーイング・コンサーン」ではなく、「ミッション・コンプリート」でいいと思ったんです。ミッションやビジョンを達成したら、もうそれで終わり。だからパナソニックも、いったん「ミッション・コンプリート」を宣言したらいいと思うんですけどね。「かつて幸之助の掲げた使命はほぼ達成できました。したがって私たちは次のステージに進みます」と言ってくれたら、さすがパナソニックはすごい会社だなと思えるんですけど。」(141ページ)

■「そういえば昔、春日大社の偉い人から「人が見てるところでエエことするのは誰でもできる。誰も見てへんところでエエことできるかどうかがすべてなんや」というお話をうかがったことがあります。それを「陰徳を積む」と言う、と。」(153ページ)

■「たしかに順番は大切です。コーン・フェリーの調査で分析をしてくれた人も、業績に対するインパクトはビジョンが一番大きいけれど、最終的に有効なビジョンを打ち出すことに成功したリーダーのキャリアを見ると、いきなりビジョン型からスタートした人はほとんどいないと言っていました。 まずは的確な指示を出したり、自分で率先してやれるだけの能力があり、部下とのインタラクションもちゃんと取れるようになった上で、ビジョン型になる。」(162ページ)

■日本人の会社へのエンゲージメントは低い。つまり、もともと遠心力が強い。それでも日本の会社でそれなりに仕事が回ってきたのは、みんな真面目なので、会社に行くと一応は仕事をするから。でも会社に行かない世の中になると、ハチャメチャになるところがたくさん出てくる。そうなると、求心力を回復する自信のない会社は「会社に来い」という方向に向かう。一方、別のアプローチで求心力を回復させようと思うのであれば、大事なのはビジョンとなる。(168ページ)

■「優秀さの定義に「ビジョンをつくれる」という項目は含まれていなかった。むしろ、与えられた問題を早く正確に解く能力を持っていることが優秀さの中心的な定義だったんですね。(中略)でも、すでに世の中はまったく違うステージに入って、社会的価値も変化しているのですから、本来ならそれに合わせて優秀さの定義を変え、それに伴って教育も変えなければいけません。ところが優秀さの定義が前時代のまま残っているので、さまざまな歪みが生じているのだと思います。」(171ページ)

■「自ら大きなビジョンを掲げている中川政七商店としては、その7000億円のなかで1割くらいはシェアがないと恥ずかしい。つまり700億円です。ただ、いまの時点で100億円までは視野に入っていますが、残り600億円は正直なところまだ見えていない状況ですね。でも、それを実現できるようにやっていかなければいけません。少なくとも、幹部社員はビジョンと数字をつなげるこのロジックを理解してやっています。 といった具合に、自分の会社を引き合いに出してここまで話すと、講座の参加者もビジョンと事業がどうつながるのかがわかってくるみたいですね。」(180ページ)

■「若いときに人生のゴールを決めて、それを達成するための精密なプログラムを組み、それ以外のことは「役に立たないから」と切り捨てている人は、非常に危険なことをやっている、それがクランボルツの主張です。むしろ成功者の多くは行き当たりばったりの面があって、よく言えば柔軟なんですね。(中略)ビジョンを持っているほうがモチベーションが上がりますし、学習も進むので、絶対にあったほうがいい。ただ、ビジョンに頑なに執着することで、それと関係のない人との出会いや新しい体験の機会などを排除してしまうのはよくないということです。 クランボルツは、そういった出会いやチャンスを「良い偶然」と呼びました。」(265ページ)

4.購入前の自分に薦めたい度

★★★★★(5段階中5)

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