『具体と抽象』

具体と抽象 読書メモ - ビジネス

1.書籍情報

細谷功著、dZERO、2014年11月発行、133ページ

2.購入した経緯

ビジネス書を読んでいると、たまに本書や、本書で書かれている「具体と抽象」について言及されることがあるため気になっていたもの。

3.読書メモ

薄い本で、しかも非常に平易に書かれているが、抽象概念を扱う思考力を高めるためのポイントが多く紹介されている。ひとつひとつ考えながらゆっくり何度も読みたい本。以下、特に重要な点をメモ。

■「「細部を切り捨てて特徴を抽出する」といえば、物まねや似顔絵を思い起こします。(中略)どこが似ているかわからないのに似ていると思わせるもの、つまり特徴がデフォルメされて見事に表現されているものです。 抽象化とは、このような「デフォルメ」です。特徴のあるものを大げさに表現する代わりに、その他の特徴は一切無視してしまう大胆さが必要といえます。」(27−28ページ)

■「抽象化とは複数の事象の間に法則を見つける「パターン認識」の能力ともいえます。身の回りのものにパターンを見つけ、それに名前をつけ、法則として複数場面に活用する。これが抽象化による人間の知能のすごさといってよいでしょう。」(33ページ)

■「たとえ話のうまい人とは、「具体→抽象→具体という往復運動による翻訳」に長けている人のことをいいます。(41ページ)

■「徹底的に抽象度を高めた学問の代表が哲学と数学です。ざっくり言ってしまえば、抽象化の対象を論理の世界だけで説明するもの、つまり純粋に理論的なものが数学です。これに対して、対象が人間の思考や感情など、理論や論理だけでは説明がつかないものが哲学ということになるでしょう。 ただし、頭の使いどころ」は「高度な抽象概念の操作」という点で一致していますから、同時に数学者であり哲学者として一流の仕事を残している人(デカルト、パスカル、ライプニッツなど)が多いのも十分うなずけます。「(43ページ)

■「顧客の言うことを聞いていては良いものはできない」に対して、「顧客の声が新製品開発のすべての出発点である」というような「永遠の議論」は、「どの(抽象度の)レベルで話をしているのか」という視点が抜け落ちたままで進むため、永遠にかみ合わないことが多い。(52−54ページ)

■上流の仕事の特徴:抽象度が高い、全体把握が必須、個人の勝負、少人数で対応、創造性重視、多数決は効果なし
下流の仕事の特徴:具体性高い、部分への分割可能、組織の勝負、多人数で対応、効率性重視、多数決が効果あり
(66ページ)

■「下流の仕事は多くの人が関わったほうがレベルが上がり、速く安くなりますが、上流の仕事の質は、むしろ関わった人の量に反比例します。人が関われば関わるほど品質は下がり、凡庸になっていくのが上流の仕事といえます。」(69ページ)

■「哲学、理念、あるいはコンセプトといった抽象概念がもたらす効果は、個別に見ているとバラバラになりがちな具体レベルの事象に「統一感や方向性」を与えることであり、いわばベクトルの役割を果たしているのです。」(83ページ)

■「事象を具体レベルのみ見ているか、具体と抽象を結びつけて考えているかは、たとえば500ページの本を「短時間でかいつまんで説明」してもらうとよくわかります。(中略)重要なことは、膨大な情報を目の前にしたとき、その内容をさまざま抽象レベルで理解しておくことなのです。(例:「30秒な骨子だけ」「3分なら骨子と三つのポイントを」「30分あれば詳細までじっくりと」)(91−92ページ)

■「抽象化された知識や法則は、一見「高尚に見える」だけに取り扱いに注意が必要です。 ルールや理論、法則(例:文法)は、大抵の場合は具体的に起こっている事象の「後追い」の知識だったはずです。ところが、一度固定化された抽象度の高い知識(ルールや法則等)は固定観念となって人間の前に立ちはだかり、むしろそれに合わない現実のほうが間違いで、後付けだったはずの理論やルールに現実を合わせようとするのは完全な本末転倒といえます。」(97ページ)

■「抽象の一人歩き」は他にもあります。人間はどんなものにも「パターン」や「関係性」を見つけようとする習性があるので、意味のないランダムなものにも「パターン」や「関係性」を見つけようとするバイアスがかかってしまうことがあります。 逆のパターンもあります。「数字が一人歩きするする」といわれる状況がそれです。これは、抽象と具体の関係性のリンクが切れたのちに、具体のほうが一人歩きを始め、抽象とのあいだにギャップが生じるというものです。 「数値目標」という具体的な情報は、必ずそこに「目的」や「意図」という、より抽象度の高い背景情報がセットになって生まれているはずです。」(98−99ページ)

■「結局重要なのは、「抽象化」と「具体化」をセットで考えることです。これらは一つだけでは機能せず、必ずセットになって機能します。(中略)まずは徹底的に現実を観察し、実践の活動を通して世の中の具体をつかみ、それを頭の中で抽象化して思考の世界に持ち込む。そこで過去の知識や経験をつなぎ合わせてさらに新しい知を生み出したのちに、それを再び実行可能なレベルまで具体化する。これが人間の知とその実践の根本的なメカニズムということになると考えられます。」(129ページ)

4.購入前の自分に薦めたい度

★★★★☆(5段階中4)

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