『仕事選びのアートとサイエンス』

仕事選びのアートとサイエンス 読書メモ - ビジネス

1.書籍情報

山口周著、光文社、2019年3月発行、244ページ

2.購入した経緯

同著者による『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が非常に良かったことから他の著書も購入。

3.読書メモ

電通、ボスコン、ベンチャー等の転職経験を持つ著者による仕事選び論。

なぜ『仕事選びのアートとサイエンス』と改題されたのかよく分からなかったが、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』同様、着想の斬新さとすっきりと分かりやすい論理展開に惹かれ、「次はどのような話がどのように論理展開されるのだろう?」とワクワクしながら読めた。

ただし、著者の経験をベースにしていることから、著者のキャリアとは全く別のキャリアの読者にどこまで響くかは不明。

以下、特に記録しておきたい箇所をメモ(「→」部分は私のコメント)。

■「例えば、著者の生業であるマネジメント・コンサルティングという仕事について考察してみると、世間一般的にはロジカル・シンキングの能力が大変重要と見なされています。 確かにロジカル・シンキングの能力はもちろん必要なのですが、それは必要条件のごく一部に過ぎず、コアに求められるのは、適切な状況下でロジカル・シンキングを捨てられるということなのです。コンサルティング業界で活躍している人は、このバランス感覚が絶妙なんですね。」(91ページ)
→強い麻雀打ちもこのバランス感覚が絶妙だと思います。

■「これは典型的に「好き」と「憧れ」を混同してしまっているケースです。御本人にとっては紙一重なのですが、「コンサルティング会社で問題解決をしている自分」のイメージに憧れているだけで、問題解決という営みそのものを日常生活の中で愛好しているわけではないのです。「コンサルティングファームの社員になりたい」のであって「コンサルティングをしたい」のではない、という言い方もできるでしょう。 本当に問題解決という営みそのものを愛しているのであれば、仕事上の要請を離れても、勝手に自分で、例えば社会的な問題について問題を設定して解決策を考える、ということを繰り返しているはずなので、「問題は何? どう解決すればいいの?」といった質問を投げかければ、一晩中でも話し続けられるだけのストックを持っているはずなんです。」(95ページ)

■「バックキャスティング型キャリア戦略が危険だと考える別の理由として、実現不可能なキャリアゴールを設定してしまったことで、常に現実の自分とゴールイメージとのギャップに悩み、現在の自分が獲得している、または獲得しつつある小さな幸せも含めて全否定してしまう可能性がある、という点も指摘しておきたいと思います。」(107ページ)

■「パーソナリティと不適な職業を選択したとしても、その領域でハイパフォーマーとして活躍することは必ずしも不可能ではないでしょう。結局のところ、それは努力次第ということになると思います。(中略)パーソナリティの違いは、そこにどの程度の努力を必要とするかという点で影響を与えるに過ぎません。 しかし、こと本人の幸福度という話になってくると、これを努力で埋め合わせるのはなかなか難しいものがあると思います。極論かもしれませんが、パーソナリティと仕事が大きくズレている場合、どんなにハイパフォーマンスを発揮できたとしても、本当に幸福にはなれないと思っています。」(121ページ)

■「第一階層=親友は人数が少なく、距離感が近すぎる。一方、第三階層=単なる知人は「仕事ぶり」が分からないため怖くて誘えない。ということで「ハプンスタンス・セオリー」において、「いい偶然」を引き寄せるためには、「第二階層の人脈」(注:「同僚ゾーン」)が非常に重要だということになるわけです。」(142ページ)

■「これはまた、読書が、自分自身を知るための絶好のリトマス試験紙でもあることを示唆しています。 前章で、職業を選択する際には「好きと憧れを混同しない」という点が重要である、と指摘しましたが、この混同は読書体験においてテキメンに現れます。つまり、憧れている領域の本を読んでみて、どうにも面白くない、わくわくしないと思ったら、それは職業として向いていないと考えた方がいい、ということです。(165ページ)

■「「他人の考えたことを鵜呑みにしているばかりだと自分で考える力が衰える」という主張には、耳を傾けるべきだろう、と思います。 この危険性を感じるのが、よくある「ノウハウ系」の本です。(中略)「ファンダメンタルなスキルを鍛える」という観点からは、こういう本ばっかり読んでもあまり意味はないだろうと思います。 なぜなら、肝心要の「物事を本質的に考える力」が、このような書籍をいくら読んでも鍛えられないからです。」(172ページ)
→コンサル会社に頼りすぎると、自社で考える力を失います。その状態にするのがコンサル会社の狙いでもあるわけですが。

■「イギリスの軍事学者・軍事史研究家であるベイジル・リデルハートは、外交の要諦は「宙ぶらりんの状態に耐えること」であると説いています。(中略)要するに、非常につらい、進退窮まった状態に陥ると、個人も国家も「窮鼠猫を噛む」ようなリスクの高い決断をしてしまいがちで、これが破滅を招く、と言っているわけです。」(183ページ)

■「「攻めの転職」で何を留意すべきか、という点も見えてきます。それは「何を得られるかではなく、何を失うのかをちゃんと考える」とうことです。(中略)なぜ、転職に当たって、費用対効果のうち、往々にして費用面の検討が疎かになるのか? 明確な答えは私にも分かりませんが、一般的にこれから「攻めの転職」をしようという人にとっては、「失うもの」が空気のような存在になっていて意識されにくい、という側面があるのではないかと考えています。これは特に、大企業から外資系企業やスタートアップ企業に移る場合に顕著だと思います。」(199ページ)

■「仕事が持っているネイチャーは、様々な枠組みで考えることができます。例えば私が意識しているのは、「課題先行」(注:顧客から投げかけられる課題)と「好奇心駆動」の二つのタイプに分けて考える枠組みです。(中略)十分な顧客基盤ができ上がれば、顧客の課題を解決することで事業の運営が成り立つわけですが、十分な顧客基盤がない状況では、内発的な動機に基づいて商品を作ったりマーケティングを行ったりして顧客を創造しなければならないわけです。 これらのネイチャーでは求められる能力が大きく異なるので、両者間をまたぐ転職では注意が必要です。」(202ページ)

■「電通に限らず、広告代理業界で出世する人は、「与えられたミッションをつつがなくこなしてきた」人たちです。「課題解決型志向」と言えば響きはいいのですが、一方で「課題が与えられなければ何もしない人たち」であるとも言えます。(中略)与えられた課題をうまく解決した人が出世して経営者になっていくわけですが、経営者になった途端、課題を投げてくれる人がいなくなってしまいます。そうすると、自分で課題をどう設定すればいいのかわからなくなってしまうんですね。」(205ページ)

4.購入前の自分に薦めたい度

★★★★☆(5段階中4)

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