『バカの壁』

バカの壁 読書メモ - ビジネス

1.書籍情報

養老孟司著、新潮社、2003年4月発行、203ページ

2.購入した経緯

大学生の頃に読んだがいまいちピンとこなかった。今改めて読んだらどうなるかと思い購入。

3.読書メモ

改めて読んでみると、書いてあることが具体例をもってイメージできて、読んでいて面白かった。やはりある程度人生経験がないと、具体的なイメージが湧かないのだと実感。

■(出産に関するビデオを男女に見せて、その感想を聞いた結果に関し、)「自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在しています。これも一種の「バカの壁」です。」(14ページ)

■「特に官庁というのは、一度何かを採択するとそれを頑として変えない性質を持っているところです。だから簡単に「科学的推論」を真理だと決めつけてしまうのは怖い。 「科学的事実」と「科学的推論」は別物です。温暖化でいえば、気温が上がっている、というところまでは科学的事実。その原因が炭酸ガスだ、というのは科学的推論。」(25ページ)

■脳内の一次方程式:y(出力、反応)=ax(aは係数、xは入力)
aは「現実の重み」あるいは「感情の係数」。プラスは好きなこと、マイナスは嫌いなこと。ゼロは無関心(例:親の説教を聞かない子供)、無限大は原理主義でその人の行動を絶対的に支配する。
「基本的に世の中で求められている人間の社会性というのは、できるだけ多くの刺激に対して適切なaの係数を持っていることだといえる。もちろん、その中にはゼロであることが正しい係数、ということだってあるでしょう。街を歩いている最中、ずっと電柱に反応しつづけたって仕方ないのですから。」
(31〜40ページ)

■「今の若い人を見ていて、つくづく可哀想だなと思うのは、がんじがらめの「共通了解」を求められつつも、意味不明の「個性」を求められるという矛盾した境遇にあるところです。会社でもどこでも組織に入れば徹底的に「共通了解」を求められるにもかかわらず、口では「個性を発揮しろ」と言われる。どうすりゃいいんだ、と思うのも無理の無い話。 要するに「求められる個性」を発揮しろという矛盾した要求が出されているのです。組織が期待するパターンの「個性」しか必要無いというのは随分おかしな話です。」(46ページ)

■「その後、自分で一年考えて出てきた結論は、「知るということは根本的にはガンの告知だ」ということでした。学生には、「君たちだってガンになることがある。ガンになって、治療法がなくで、あと半年の命だよと言われることがある。そうしたら、あそこで咲いている桜が違って見えるだろう」と話してみます。(中略)知るということは、自分がガラッと変わることです。したがって、世界がまったく変わってしまう。見え方が変わってしまう。それが昨日までとほとんど同じ世界でも。」(60ページ)

■「あくまでも共同体は、構成員である人間の理想の方向の結果として存在していると思います。「理想の国家」が先にあるのではない。 かつては「誰もが食うに困らない」というのが理想のひとつの方向でした。今はそれが満たされて、理想とするものがバラバラになっている。だからこそ共同体も崩壊している。」(108ページ)

■「いかにしてイチロー選手は、常人の能力を遥かに超えた「反応の速さ」を示せたか、という問題を考えてみます。(中略)普通の人と同じルートで、神経細胞から神経細胞へ刺激が伝わるという行為をリレーしているだけでは、普通の反応になってしまうはずです。そうすると、普通の人より「速い」人はどうしているのか。 おそらく、このシナプスの部分をすっ飛ばしてしまっているのではないか、と仮定されます。(中略)こういう脳の中を一部「飛ばす」能力というのは、かなり先天的なものではないかと思われます。」(140ページ)

■「脳は、往々にして運動に対して抑圧的に働きます。あくまでも一般論ですが、小学生ぐらいで活発で運動の出来る子はあまり勉強が出来ないし、勉強が出来る子は運動が苦手だったりすることが多い。 「考える」ということは、大脳皮質の中で色々と刺激を出したり入れたりごちゃごちゃやっていることです。それと運動の速さとは、別のことになる。そういう意味では、脳の働かせ方の違いによる向き不向きというか、方向性の違いが出てくる。(中略)ただし、そのどちらが利口だ、バカだという風に言い切れるかというと、そういう問題ではないのはいうまでもありません。(中略)常人と異なっているのはごく一部。非常に微妙なところでバランスがとれているのだと推察出来ます。」(141ページ)

■「おそらく彼(ピカソ)は意識的に、絵を描く際に、ノーマルな空間配置の能力を消し去ったのです。ピカソはそれを意識的に行っていた。病気になると、ある能力が消えて、ひとりでにピカソの絵みたいなものを描くケースがありますが、ピカソ自身は、健康なのに意図してああいう絵が描けた。 おそらく彼は自分の視覚野というものを非常に上手にコントロールできていた。(中略)空間配置がグチャグチャな絵を頭の中で浮かべてみろと言ったって、特定の機能を落とすということはできないでしょう。当然、目から入ってくれば、ひとりでに普通の像が脳の中で形成されてしまう。そこを上手に抑制して、一カ所をポーンと消すと、ああいう絵になる。それを経験的にちゃんと作ることができるというのは、大変な能力です。」(144ページ)

■「実はカースト制というのは完全ワークシェアリングです。」(178ページ)

■「欲には色々な種類がある。例えば、食欲とか性欲というのは、いったん満たされれば、とりあえす消えてしまう。これは動物だって持っている欲です。ところが、人間の脳が大きくなり、偉くなったものだから、ある種の欲は際限がないものになった。 金についての欲がその典型です。キリがない。要するにそういう欲には本能的なというか、遺伝子的な抑制がついていない。すると、この種の欲には、無理にでも何か抑制をつけなくてはいけないのかもしれない。」(184ページ)

■「安易に「わかる」、「話せばわかる」、「絶対の真実がある」などと思ってしまう姿勢、そこから一元論に落ちていくのは、すぐです。一元論にはまれば、強固な壁の中に住むことになります。それは一見、楽なことです。しかし向こう側のこと、自分と違う立場のことは見えなくなる。当然、話は通じなくなるのです。」(204ページ)

4.購入前の自分に薦めたい度

★★★★☆(5段階中4)

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