『クリティカル・ビジネス・パラダイム』

クリティカル・ビジネス・パラダイム 読書メモ - ビジネス

1.書籍情報

山口周著、プレジデント社、2024年4月発行、288ページ

2.購入した経緯

山口周シリーズ最新作。

3.読書メモ

これまでの同氏の著作から内容の予想はついており、あまりサプライズはなかったが、それでもたくさんメモしたい箇所あり。

■「つまりテスラは、古典的な経済学の定石よろしく、市場に存在する潜在的なあるいは顕在的な顧客の不満・不安・不便を解消することで成長したのではなく、むしろ、誰もが不本意ながらも受け入れていたシステムに対して、全く異なるオルタナティブなあり方を示し、新たな問題を生成することで成長しているのです。」(27ページ)

■「従来の世界において、社会のあり方に対して批判的な眼差しを向け、時機に応じた警鐘を鳴らしていたのは主に哲学者やアーティストでした。(中略)そしていま、このマインドセットがビジネスに携わる人々にも求められています。なぜなら、誰もが当たり前だと思って疑わなかった社会の状況について、批判的な眼差しを向けて考察するという、もともとは哲学者やアーティストがやっていたことが、クリティカル・ビジネスのイニシアチブをとるリーダーには求められるからです。」(33ページ)

■「「問題」というのは、元からどこかにあって発見されるようなものではなく、私たちが認知的に「新たに生成するもの」だからです。一時期あれだけ騒がれたデザイン思考が、ブームの熱量に見合うようなインパクトを残すことができなかった理由がこの点にあったと思います。デザイン思考は方法論として、最初のステップに「現場にいってユーザーの抱える問題や課題を実体験する」ことを提唱していますが、このアプローチを採用する限り、把握できるのはユーザー体験に内在する既存の問題だけで、新しい問題を認知的に生成することは原理的にできません。」(53ページ)

■「私たちの眼の前にある現状が、どんなにネガティブに見えるものであっても、その状況に対置される「あるべき姿」が構想できなければ、そこに問題は存在しません。つまり「我々が認知的に生成しなければ、全ての問題は存在しない」ということです。」(54ページ)

■原研哉『デザインのデザイン』からの引用:「センスの悪い国で精密なマーケティングをやればセンスの悪い商品が作られ、その国ではよく売れる。センスのいい国でマーケティングを行えば、センスのいい商品が作られ、その国ではよく売れる。商品の流通がグローバルにならなければこれで問題はないが、センスの悪い国にセンスのいい国の商品が入ってきた場合、センスの悪い国の人々は入ってきた商品に触発されて目覚め、よそから来た商品に欲望を抱くだろう。しかしこの逆は起こらない。(中略)つまり問題は、いかに精密にマーケティングを行うかということではない。その企業が対象としている市場の欲望の水準をいかに高水準に保つかということを同時に意識し、ここに戦略を持たないと、グローバルに見てその企業の商品が優位に展開することはない。」(60ページ)

■「このような時代にあって、顧客はその要望、欲求を伺って充足させるべき相手ではなく、むしろ消費を含めたライフスタイル全般に関わる思考・行動様式を改めさせるために批判・啓蒙の対象になるというのがクリティカル・ビジネス・パラダイムの考え方と言えます。」(66ページ)

■「なぜ、数々のテクノロジーイノベーションが起きているにもかかわらず、経済成長率は低下の一途を辿っていて反転の兆しがないのか? 経済学者はこの不思議な現象について様々な考察を繰り広げていますが、最大公約数としての回答をここで述べれば「社会に残存する問題が少なくなってしまったから」ということになります。」(107ページ)

■「市場原理の枠組みの中では「社会問題」は解決されにくい、ということです。なぜなら、人が身銭を切って解決するのは、まずは何をさて置いても個人的問題だからです。(中略)つまり「身銭を切っても解決したい問題」がなくなってしまえば、経済成長はそこでストップすることになります。そして、これがまさに、先進国でいま起きていることだと考えられます。」(111ページ)

■「江戸時代中期を代表する絵師、土佐光起が「余白も模様のうちなれば心にてふさぐべし」という有名な言葉を残していますが、この広告の大きな余白のスペースもまた、大きくて豪華な自動車ほど良いという強迫から解放された自由な精神が持ちうる心の余裕を象徴的に表現しているのです。まとめれば、フォルクスワーゲンによる「Think Small」のキャンペーンは、クリティカル・ビジネスの実践として、最も初期の事例の一つとみなすことができるでしょう。」(136ページ)

■「グラミン銀行の画期的にクリティカルだった点は、貧困という問題を「お金の不足」と捉えるのではなく、生活様式・生活習慣が絡んだ複雑なシステム問題としてとらえ、融資と同時にこの点を改めることを顧客に強く求めたことです。」(140ページ)

■「歴史的な経緯として、組織がごく少数の選良によって運営されるようになったのは、意思決定に必要な情報の質と量を多くの人々と共有することが難しかったからです。しかし、現在は情報技術の進展によって、このような制約条件は解除されています。であれば、なぜ私たちは、100年前の情報技術が貧弱だった時代と同じ意思決定のやり方を、いまも続けているのでしょうか?(中略)「システムは常に、表の目的ではなく、裏の目的に対して最適化されている」というシステム思考家の第一条を思い返せば、その理由は明白でしょう。(中略)「馬鹿馬鹿しいほどに高額な経営者の報酬」と「企業における非民主的な意思決定のあり方」は、人目に付かないテーブルの下で手と手を取り合って両者を支え合っています。」(162-163ページ)

■クリティカル・ビジネスのアクティビストにとって「多動性」は非常に重要な要件。ここでいう「多動性」は体を動かす物理的な多動に限らず、心を動かす精神的な多動も含む。慣れ親しんだ日常から離れて、世界を自らにとって新たなもの、奇異なものとしてあらためて眺めるきっかけになる。(178-179ページ)

■キャリアのバーベル戦略:一方の端に安定的な報酬が得られるけれども大化けすることのない仕事を、もう一方の端には不安定で不確実ではあるけれども大化けする可能性のある仕事を組み合わせる(198ページ)

4.購入前の自分に薦めたい度

★★★★☆(5段階中4)

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